擁壁とは、わかりやすく説明すると建物を土砂崩れなどから守るためのものです。擁壁にはいくつか種類あり、それぞれに適した状況があります。擁壁を新設した場合の注意点を理解し適切に対策を検討しましょう。
住宅を購入や建築を考えた際、「海が見える」「景色や景観がいい」など見晴らしのいい場所を選びたいところですが、そのような場所の多くは新しく擁壁の築造や盛土工事が施工されることになります。
このような場所は、不同沈下事故につながる最も危険な状況です。
そのため、不同沈下事故を起こさないために土地選びや擁壁について十分に知識や理解が必要となります。
そこでこの記事では、そもそも擁壁とは何かに加え、擁壁の種類や特徴、さらには住宅を建てる際の注意点をわかりやすく解説します。現状に合った適切な擁壁を取り付けるためにも、ぜひ本記事を最後までお読みください。
擁壁とは
擁壁は、建物や土地を守るための盾のような存在です。とくに、高低差がある土地では擁壁が不可欠です。
土地の傾斜や崖に接する際は、擁壁によって土砂の崩れや水の圧力から守り、土地の安定を保ちます。主に鉄筋コンクリートやコンクリート製のブロックを使い、斜面を強固な壁で固めて、安全な生活空間を確保する役割を担っています。
地震や豪雨など、自然の力による影響から建物を守るためにも、擁壁は重要な構造物です。
擁壁の種類
擁壁は、主に以下の3種類があります。
・コンクリート擁壁
・ブロック擁壁
・石積み擁壁
ここからは、それぞれの擁壁にはどのような特徴があるのかを解説します。
【コンクリート擁壁】
コンクリート擁壁は、現代の土地造成や建物建設において広く利用される、頼りがいのある構造物です。コンクリート擁壁は、鉄筋を用いた鉄筋コンクリート造(RC造)と、鉄筋を使用しない無筋コンクリート造の2つ製造方法に分けられます。
そのなかでも、強度が高いとされる鉄筋コンクリート造は、広く利用されています。さまざまな形状があり、逆T型やL型、逆L型、重量式、もたれ式など、土地の形状や建物の位置に応じて、最適な形を選択することが可能です。
また、斜面に垂直に立てることも可能なため、見た目がすっきりしており、高い耐震性を備えている点も魅力的です。
【ブロック擁壁】
ブロック擁壁は、ブロックを重ね合わせて形成される擁壁で、実用性と経済性を兼ね備えています。ブロック擁壁には軽量でコストパフォーマンスに優れ、取り扱いが容易な間知ブロックを使用したものや、より強度が求められる場所に適したコンクリート製のブロックを用いたものがあります。
間知ブロックは、水平や斜めといった多様な積み方が可能で、とくに高低差のある住宅地でよく取り入れられ、最大約5メートルの高さまで対応可能です。一方、コンクリート製のブロック擁壁は鉄筋と生コンクリートを内部に充填することで、高さ3メートル程度の圧力にも耐える頑丈な構造を持っています。
【石積み擁壁】
石積み擁壁は、石を重ねて造る擁壁です。石積み擁壁には、加工された軽石を使用する大谷石積みや天然石を用いた練り石積み、空石積みなどの種類があります。
1950年代から1960年代にかけては、大谷石積み擁壁が盛んに用いられましたが、比較的低い強度のため、現在では建築基準を満たさないケースが多く、利用が減少しています。
一方、練石積み擁壁では、石と石の間にモルタルやコンクリートを注ぎ込みながら積み上げるため、より強固な構造を持っているのが特徴です。空石積み擁壁は接着剤を使わずに石を積むため、デザイン的な美しさはあるものの、安全性に不安があるといえるでしょう。
石積み擁壁は、自然な美しさと独特の風合いで風景に調和する一方、適切な管理が求められます。
擁壁の工事費用
擁壁工事は安全と安定性を確保するうえで欠かせないものですが、かかる工事費用は安価ではありません。たとえば、土地の一部として10メートルにわたり、高さ5メートルの擁壁を設置する場合、数百万円の費用が発生することが一般的です。高額な費用がかかることもあるため、建築予算を大幅に上回るおそれがあります。
ただし、擁壁の設置が急務とされるケースでは助成金や補助金の支給が期待できることもあります。公的支援は費用の負担を軽減し、より安全な住環境を整備するうえで大きな助けとなるため、条件に該当する場合は積極的に活用するとよいでしょう。
擁壁の注意点
擁壁を建てる際に、注意しなければならないのが以下の4点です。
・不同沈下につながる可能性がある
・隣地の建造物を損壊させる可能性がある
・地中埋設物が出てくる可能性がある
・既存の擁壁では新築の建物を支えることができない可能性がある
具体的に何に注意する必要があるのかを解説します。
【新設擁壁は不同沈下につながる可能性があります】
擁壁が起因する建物の不同沈下は、擁壁下の地盤強度が不足している場合や擁壁埋め戻し部分が経年変化により緩むことで、建物が不均一に傾いてしまうこと生じてしまいます。
不同沈下は建物の構造に重大な影響を及ぼし、本来平行であるべき壁や床が歪み、荷重が集中してしまうことで、さまざまな問題を引き起こします。たとえば、生活面ではドアや窓の機能不全、気密性の低下などです。
とくに擁壁を新設する際は、擁壁の埋め戻し方法にも注意が必要です。擁壁を新設するために地盤を掘り返し、その後埋め戻す際に十分な転圧を行っても、もともとの地盤との沈下特性が異なるため、不同沈下が起こりやすくなります。地盤との境界で地割れが発生することもあります。
対策としては、埋め戻し部分を砕石や埋め戻し土に地盤改良材を混ぜ地盤改良することが有効です。擁壁の高さに応じて、転圧方法を適切に選択し、均一な転圧が行えるようにしましょう。また、地盤に対して適切な勾配で切り込むことも、不同沈下を防ぐ対策のひとつです。
不同沈下事故の多くは、新設した擁壁が原因で生じています。新設の擁壁が存在する場合やこれから築造する場合は十分な注意が必要になります。
【隣地の建造物を損壊させる可能性がある】
擁壁の劣化は見過ごせません。長年にわたる使用により擁壁は劣化し、古い擁壁では亀裂や崩壊のリスクが高まります。最悪の場合、崩落により隣地の建物に損害を与えることも考えられます。
擁壁の耐用年数や状態を正しく評価することが、トラブルを避けるために重要です。
【地中埋設物が出てくる可能性がある】
擁壁工事、とくに新たな用途のために地形を変更する場合は、予期せぬ地中埋設物の発見に備える必要があります。地中には古いインフラの遺構、古い水道管や浄化槽、井戸の残骸などが隠されていることがあり、工事中に現れることがあります。
大規模な岩石や鉄骨が出土した場合は、撤去や処理には追加費用が必要です。地中埋設物は、工事前の調査ではなかなか発見できないため、撤去や処理のことを考え、資金計画には十分な余裕を持たせておきましょう。
【既存擁壁の状態で建築計画が変更となる可能性がある】
不動産を購入し新築を検討する際、既存の擁壁の状態は重要な要素のひとつです。表面上は問題ないように見える擁壁も、行政の基準を満たしていない場合や建築確認が取れていない場合には、建物を建てる前に擁壁の再構築や擁壁に変状しても建物に不具合が生じないようにする対策が必要になることがあります。
その結果、計画していた予算を上回り、建設計画に大きな影響を与えてしまうかもしれません。建築会社などに相談し、既存の擁壁の状態に関する詳細な情報を収集することが重要です。
適切な事前調査と計画を行うことで、予期せぬ費用の増加を避け、安心して工事を進められるでしょう。
まとめ
擁壁は、高低差のある土地で土砂崩れなどから建物の安全を守るために不可欠な構造物です。擁壁には、それぞれ異なる特徴を持つコンクリート擁壁・ブロック擁壁・石積み擁壁の3種類があり、状況に応じてふさわしいものを選択できます。
擁壁を新設・改修する際には、不同沈下のリスクを伴う恐れがあります。また、既存の擁壁は新築する建物の障害にならないよう、事前調査も大切です。
一方、高さや地盤の状況にもよりますが擁壁を作らずに建物の基礎を下げること(深基礎)で高低差を処理できる場合もありますので、工務店や設計士に相談してみるのも良いかもしれません。
新規擁壁がある土地に建物を建築する場合は、擁壁の埋戻し方法を確認することが重要です。ビイック株式会社では、表面波探査法による地盤調査を行い擁壁埋戻し方法に不安要素がある場合は、対処方法をアドバイスさせて頂きます。まずはお気軽にご相談ください。